日本に住む、私たちが生活する環境は歴史上かつてないほど清潔である。上下水道が整備され、伝染病はほとんど発生しない。街中の消毒も、水害のとき以外ほとんど見ない。
清潔が潔癖を呼び込んでいるのか、テレビを見れば、部屋やトイレの除菌、台所で使うスポンジの除菌に、衣類の除菌などのCMが目白押しだ。また、私たちが日常触れている品物に使われている抗菌素材がいかに多いことか。除菌効果をうたう商品や、SIAAマーク(抗菌製品技術協議会認定登録商品)がついた商品が溢れている。
それほどの清潔な環境が車の室内にもあるか、皆さん、考えたことがありますか。
いま、日本人の最大関心事とも言える「清潔」という観点で、車の室内を確認してみよう。 |
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潔癖ともいえる清潔さの中で暮らしているにも拘らず、「除菌?、そんなに神経質にならなくてもいいんじゃないの?」という声が聞こえそうである。が、本当にそうであろうか。
もしも、車の室内を除菌しないまま放っておくとどうなるか、調べてみた。
除菌する対象である「菌類」というのは、南極のような極寒の地を除き空気中に満遍なく存在し、機会があればすぐに繁殖する。たいへんに繁殖力が強い。まず、汚れたまま放っておくと、「カビ」が発生する。カビによって引き起こされる人体への影響を列挙してみよう。
クモノスカビ
黒色酵母 |
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- クロカビはアレルギーを引き起こす。このカビは高温・低温・乾燥に強い。
- ススカビは喘息の原因となる。プラスチックを好む。クーラー内部のプラスチック面で発育し、冷気とともに胞子をまき散らす。
- ツチアオカビもアレルギーを引き起こす。低温でも繁殖し、セルロース分解能力が強く、繊維質のトリムなどが分解、つまり破壊されてしまう。
- アカカビは角膜真菌症の原因となる。
- クモノスカビは脳・脊髄などの中枢神経及び消化管を犯す。低温(10℃以下)でも発育する好冷菌。ほこりの中からよく検出される。
- 黒色酵母は過敏性肺炎の原因となる。太陽光線にも乾燥にも強い。湿気の多いところに発生し、ぬめりがある。
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どうです?ぞっとしませんか。
いま例示したカビは、聞きなれない名こそあれ、実は家庭内でもいつでも発生するほどポピュラーなカビであって、決して特別ではない。身の回りの話なのである。
これらのカビが存在すれば、必ず、いつでも発症するということではない。しかし可能性があることは事実。まして、これほどの清潔さの中で生きている私たちに、これらのカビの影響に対する耐性があるのだろうか。乳幼児やお年寄りのように、環境への対応力が低い弱者にとってはますます心配だ。
どこにでもいる菌なら、車の中だけが心配というわけではなかろう、と思った方もおられようが、それは違う。車の中だから心配なのである。
車の中が特殊な条件である理由は、
- 掃除をする機会が少ない。そのため、泥や、人間の毛髪や皮脂などが残りやすくなり、それらを繁殖場所とする菌類が増殖しやすい。
- 室温が大きく上下し、高温を好む菌も低温を好む菌も、どちらも繁殖しやすい。残念ながら、室内温度が低くなっても低温を嫌う菌が死滅するほど低くならず、逆に高くなっても高温を嫌う菌が死滅するほど高くならない。結局増殖するだけである。
- 車の室内はシートに座っている空間である。だから、体がシートやその他の部品に接触している時間が長く、またその面積も大きい。汗や毛髪・皮脂などは菌の大好物である。
- 車の室内は生活の延長だ。室内での飲食は日常であり、飲みこぼし食べこぼしは菌の繁殖する絶好の場所である。
- ペットを車に乗せる機会が多い。人間よりも毛や皮脂が多く、汚れを撒き散らしている。
- 車中で嘔吐することが多い。乳幼児の嘔吐は珍しいことではない。
- プライベートグラスの純正化で紫外線が室内に到達しにくくなり、紫外線に弱い菌が生き残りやすくなった。
カビに焦点を当てて取り上げたが、不衛生はカビに限ったことではなく、その他の菌もある。食中毒の原因である大腸菌や目の病気や皮膚病の原因となる土壌菌はどこにでもいる菌である。室内は格好の繁殖地である。
カビを栄養源にダニが繁殖する。ダニはアレルギー性鼻炎の原因でもある。しかもダニの死骸はカビの栄養源だ。カビによる腐敗が原因の臭いも発生する。
生活に害を及ぼす菌は外界を浮遊していて、それを家庭内に持ち込んでしまうものである。外界と家庭の中間に存在するのが車だ。
だからこそまめな清掃が第一なのだが、それだけでは不充分だ。食べかすや埃など、清掃で取り除けるものは良いが、素材に付着してしまったもの、繊維やプラスチックに着いてそこで繁殖してしまったものは清掃だけでは取り除けない。それで化学的に菌を叩かなければならず、そのために除菌・抗菌という手段が必要になる
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