|
|
|
|
|
|
|
|
第3回 |
ファミレスのマーチャンダイザー
|
|
|
|
|
|
|
長い不景気のトンネルを抜け経済回復の兆しが見られるようだが、経済の縮小は家庭経済にもいろいろな影響を与えてきた。主婦が働くということも、そのひとつに挙げられる。これが要因となり、家庭での調理時間短縮や中食と呼ばれる調理品がデパートやスーパーで大いに売れている。家庭の調理が減ったことで外食が伸びているかと言うとそうでもない。外食需要はジリ貧で減少傾向にある。これは消費者ニーズが多様化し、食に対する選択肢が拡大したことによると見られる。
これまで外食産業をリードしてきたチェーンレストランの強みは「均一」や「統一」だったが、これこそが消費者を飽きさせる一因となりつつある。危機感を抱く各ファミレスは、季節の企画や珍しい食材を求め世界を駆け回っている。その仕事人こそマーチャンダイザーだ。 |
遅い秋がようやく感じられるようになったある日のこと。いきつけのファミレスのメニューにも秋味が楽しめるアイテムがふんだんに登場した。
メニューの替わり端は、店の仕掛けを甘んじて受け入れるべく、おすすめメニューを試してみる。そこにある「雪麗茸」という名前とメニュー写真に強い興味を覚えた。オーダーを確認にきたマネージャーに尋ねた。
「初めて聞く名前ですが、どういうキノコ?どこで獲れるの?どんなカタチ?どんな味?」。矢継ぎ早の質問に苦笑しながらも
「はい。当社が独占で販売しているキノコですので、市場では見られないと思います。食感は適度に柔らかく肉厚で、かおりはそれほど強くありません。よろしかったらお召し上がりになってみてください。オススメです」と笑顔で答えたあと
「申し訳ありませんが、どこで獲れるのかは把握していませんでしたので、至急調べてまいります」と言い残し奥へ消えた。
|
|
ユキレイタケ。中国名はバイリング。中国西域、中央アジア、イタリアやフランスの荒涼とした草原に自生するキノコらしい。中国の漢方にも使われている。どうやら群馬あたりで栽培を始めたようで、マネージャーが「群馬県で獲れます」と得意げに報告してくれた事実をそのまま受け止めていたら、まるで国産のキノコのように聞こえるものだった。 |
そもそもマーチャンダイザーとは何ぞや。
市場調査に基づき、商品化の計画を練りその上で販売量や価格を決定、集大成で販促活動までやるのがマーチャンダイザーというシゴトである。バイヤーの業務範疇と重なる部分もある。
英語の意味の一義は、商品陳列用具の名前とある。商品が買ってもらえるように縁の下でがんばる棚や台。なるほど、商品化計画担当者という意味にどこかしら通じる。
さて、先述のキノコ話の続き。このファミレス本部では、メニュー開発に携わる商品開発部というセクションには約10名のスタッフがいるそうだ。彼らは考える。秋になればキノコ。食材としてのキノコは市場に出回っているものには新鮮味がない。それではどうするか。
商品開発担当者は、オーブンでカリカリに焼いた美味しい一品をメニュー化したい。一見ボリューム感があり、口にすると焼きあがった表面と裏腹にまろやかさがあるようなキノコ、と注文した(かどうか)。その命を受けたマーチャンダイザーは、来る日も来る日も世界各国のキノコを食し、ついにメガネに適う一品を探し当てるのだ。そうしてキノコはメニュー化され、私たちの口に届く。めでたし。
このキノコ、中国では薬膳料理にも用いられるほどの健康食材で、現代の消費志向に適った大きなウリだ。そこが多様化したニーズや異質化したニーズと言われる昨今の消費動向を鷲づかみできるポイントだったのに、はっきり言ってマネージャーは惨敗状態。消費者に一番近い末端(接客時)で大損害をしてしまっていた。マーチャンダイザーの仕上げシゴトに取りこぼしがあったと見るのが妥当なのか、はたまた店単位の勉強不足の結果なのか。適切な答えを求めすぎた消費者がイカンのか。
どの業界でも同じ。商品化する段階でまずニーズ分析を行い、時代に則した最適な材料を探し売れる形を追求し企画する。商品ができたら、とにかく売る。売るためにあらゆる手段を講じる。携わるもの全てがその気になる。そうして初めて売れる。
マーチャンダイザーのシゴトでは、自分が信じて選んだ商品がお客に選ばれたときに得る喜びは大きい。しかしその為の情報収集力、企画力、指導力が求められ、重ねてシビアな判断力も要求されるということである。 |
|