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毎年、春のこのシーズンになると、街のいたるところで引越し屋のトラックが目に入る。大きな規模のものもあれば、単身で少ない荷物の引越しもあり、ニーズに対応する引越しサービスも多様化してきている。
ひとつひとつの引越しは、すべてケースが違う。仕事の良し悪しはやってもらって初めて判るものであり、そもそも業者選択の要になるのはサービス会社を選ぶ見積もり額に他ならない。とは言え、昨今は付加価値を前面に押し出した顧客獲得も多い。
金額や付加価値で、業界はますますヒートアップしている模様だが、引越し業界の現在と本当に望まれるサービスを探ってみた。 |
付加価値サービスの時代に突入
目的地へ運んでくれればいい、という時代ではなくなった。引越しの目的は物の移動に違いないが、昨今は運んでくれることから前後のサービスの充実まで、実に多様な付加価値が求められている。
引越し専門業者と運送業者に加えて、宅配業者までもここに参入している。一般的に人の住居に入り込む業種は信頼を得なければ成り立たない。信頼関係が持てることで新たなニーズを生む可能性は大きい。
例えば、引越し大手のアート引越しセンターを運営するアートコーポレーションは、女性のお掃除サービス会社も運営している。引越し業から顧客のニーズを引き出し、新たな分野で活かしているケースだ。また、生活水準の高度化による高級家財の運搬も生じており、一般消費者には手に負えない荷造りも出てきている。これらは引越し業者が技術を持たずしては出来ないことを意味する。
一方で、春に移転する上得意は学生である。学生の引越しはおおむねこじんまりしたミニ引越しだ。彼らの場合、居住年数が決まっておりいずれ家財道具が不要になる。こうしたターゲットには「学割」が用意されている(アートコーポレーション)。勿論選択肢には家財道具のレンタルもあり、身軽に生活がスタートできるプランや新生活必需品が購入できる通販サービスまで用意している。
付加価値といえるかどうか、ちょっと変わったサービスで目を引くのが松本引越センターの盗聴器探査である。情報漏えいに怯える現代ならではの付加価値だ。一人暮らしの女性のニーズが高く、引越し先に仕掛けがないか一万円から一万数千円で調べてくれる。
引越しは情報収集から
付加価値サービスもさることながら、一般大衆として業者選定で一番気になるのは価格。最近はインターネットで見積もりも簡単にでき、ある程度絞り込んでから営業マンと打合せをすることができるようになった。ネット情報では、業者の選び方指南として引越し業者(実運送事業者)、取扱業者、軽貨物運送、もぐりといった業者の見方に始まって、広告の判断のしかた、業者の電話応対態度の判定、見積書の見方、違反行為など、慣れない引越しイベントで失敗をしないための手引きが盛りだくさん紹介されている。
(www.hikkoshi-ichiba.com)
このサイトでは引越しオークションなるものまであり、一応は消費者主体の運営をしているように見える。
情報を一元化している点でもインターネットは有難い。まず、ざっくり自分の引越しのケースがどのようなものかを知り、次に当てはまる業者のサービス内容を確認する。他社との比較表を見ながらの確認なので、どこかで条件を満たさない場合は別の業者で選択していけばいい。
他にもスケジュールの組み方や段取りをチェック項目に沿ってこなしていけるようなアドバイスをしているサイトがあるなど、事前に入念な準備をすれば引越しも気軽にできそうである。
プロの仕事
仕事を平準化して、コストダウンを図るのが世の中の大方の流れではあるが、ここぞと言うところに差がでるのは、やはりプロフェッショナルか否かということだろう。平準化する中で最も大切なのは他と差別できる仕事振りで、引越しのプロとあれば単に重いものを運ぶのみでなく、傷をつけないこと、積み込み段取りが良く早いこと、高級家財をきちんと梱包できることなどなど、考えてみれば非常に多くの技術を要している。エンドユーザーが納得できる仕事をこなすという観点では洗車のプロも同じである。
引越し部隊がやってきて、いかにもアルバイトで頭数ばかりを揃えていると思われても、リーダーシップを取る人材がコントロールしていれば、仕事はスムーズ且つ上等な仕上がりになる。
もうひとつ客観的に見て、迷惑行為と紙一重になりがちなことが、業者トラックの駐車方法だ。重い荷物を何度も運ぶことを考えると、より出入り口に近い場所を確保したいのは理解できる。しかし横断歩道の上だとか、狭い道路を遮断してしまうような駐車位置などで時間を掛けて作業をしていると、大衆に看板を掲げて迷惑行為をやっているようなものだと感じる。これも道路事情やマンションの位置など、引越し業者泣かせな環境はうなずけるものの、いささか身勝手な印象もあり、できる限りは周辺の環境を乱さず仕事を円滑に回せる最良の手段をとることもプロの仕事と思えるのである。 |
広報室 近藤 由紀子 |
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