タクシー運転手が、客に対し問わず語りをするケースは多い。これをサービスだと考える運転手もいれば、ただ単に話し好きの輩もいるだろう。客の数だけドラマがあるとも言えるが、運転手の方にも少なからぬドラマがあるのが当世のタクシー業界だ。
長引いている不景気は、働き盛りの中高年を直撃し失業者を多く産出した。年齢制限に引っかかり、就職もままならない。ところが、そんな求職者に対し常に広く門戸を開けているのがタクシー業界。求人誌の掲載常連業種なのである。
昨年、この業界もいよいよ規制緩和の嵐にさらされ、各社ともサービス業としてのタクシーの在り方を真剣に模索し始めている。しかもこの時勢で、「タクシーあまり」は自明のことだ。にもかかわらず、週刊求人誌には、常に見開き1頁を使い各社競って人材募集をうたっている。つまり単純に考えれば、採用しても長続きしていないのだと推測できる。実際、営業成績が上がらず、業界用語で言う「アシキリ」がある。最低限度に満たない売上げだと、給料や諸手当に大きく影響するという現実が、新参の運転手を待っているのだ。
では、いったい日本全国で、どれほどのタクシードライバーがいるのだろう。
平成14年3月末現在、運転手(法人タクシーのみ)は三十六万人。個人営業主が四万六千人余りなので、およそ40万人の運転手がタクシードライバーとして業務しているわけだ。大阪府枚方市か岐阜県岐阜市の全人口数に匹敵する数だ。
タクシー(ハイヤーを含む)業界の年間営業収入は2兆1,500億円(平成13年度)、民間鉄道にほぼ並ぶ収入高となっている。
好むと好まざるとにかかわらず、タクシードライバーを生業としている人の平均年収は325万円。年間労働時間は2、424時間で、全産業平均(555万円で2,172時間)と比較すると、年収ベースでは41%低く、労働時間は12%多いという数値が出ている。さらに、タクシー業界は労働集約型で80%が人件費であるため、タクシー会社は至って厳しい状況に置かれているといえる。
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